京都地方裁判所 昭和53年(ワ)153号 判決 1978年6月12日
主文
当裁判所が昭和五二年(手ワ)第六一三号事件につき昭和五三年二月八日言渡した手形判決はこれを取消す。
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は原告に対し金一五〇万円及びこれに対する昭和五二年一一月三〇日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。
二 被告
主文第二、三項同旨の判決。
第二 当事者双方の主張
一 請求原因
1 原告は別紙目録記載の約束手形一通(以下本件手形という。)を所持している。
2 被告は右手形を振出した。
3 右手形の受取人今村栄三は、これを満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、支払を拒絶された。
4 原告は今村から裏書を受け、本件手形を取得した。
5 よつて、原告は被告に対し、本件手形金及びこれに対する満期の日である昭和五二年一一月三〇日以降完済に至るまで手形法所定年六分の割合による利息の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1、4の事実は不知。
2 同2、3の事実は認める。
三 抗弁
1 被告は昭和四九年七月二九日今村栄三から、金二〇〇万円を利息月五分の約定で弁済期の定めなく借受け、三カ月分の利息三〇万円を天引されて、金一七〇万円を受領した。
2 被告は右借受金に対する利息として同年一〇月以降昭和五一年八月まで別表一のとおり毎月一〇万円宛支払うとともに、元本に対する返済として同年一月三一日に五〇万円、同年八月二日に八万円、同月一一日に三万円を支払つた。
3 しかして右支払金のうち、利息制限法による制限利息を超える部分を順次残元本に充当して計算すれば、別表一のとおり昭和五一年六月二〇日の支払をもつて元本は消滅し、かえつて最終的には八九万三三七円の超過払となる。
4 ところが、今村は昭和五二年八月二日現在残元本が一五〇万円あると称して、その担保のための手形の差入れを求めたので、被告はこれに応じて本件手形を振出したものだが、前記のとおり、本件手形振出当時被告の今村に対する貸金債務は存在しなかつた。
5 原本の本件手形の取得は期限後裏書によるものである。仮にしからずとするも、本件手形の支払拒絶後の裏書によりこれを取得した。従つて被告は今村に対する貸金債務不存在の抗弁を原告に対抗し得るから、被告には本件手形金の支払義務はない。
四 抗弁に対する答弁
1 抗弁1ないし4の事実は不知。
2 同5の事実中、原告が本件手形を期限後裏書により取得したとの点は否認する。
第三 証拠(省略)
理由
一 請求原因2、3の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証によれば同1、4の事実を認めることができる。
二 そこで抗弁につき判断する。
1 前掲甲第一号証によれば、本件手形面には、交換スタンプが押捺され、昭和五二年一一月三〇日付の契約不履行を理由とする支払拒絶の旨を記載した朝銀京都信用組合西陣支店作成名義の符箋が貼附されていること、及び原告が今村栄三から本件手形の裏書を受けたのは同年一二月二日であることが認められる。ところで本件手形の満期が昭和五二年一一月三〇日であること及び右認定の事実を総合すれば、本件手形を原告が裏書により取得したのは、支払拒絶証書作成期間経過前ではあるが、手形交換にまわされた後支払拒絶の符箋が本件手形に貼附された後のことであることが明らかである。
しかして右の如く手形面上支払拒絶が明白となつた場合には、遡求の段階に入り、転々流通することは通常あり得ないことであるから、その後になされた裏書については、それが支払拒絶証書作成期間前であつても、手形法二〇条一項の趣旨に鑑み、同条項に定める「支払拒絶証書作成後」の裏書に準じ、指名債権譲渡の効力しか有しないものと解するのが相当である。
してみれば、本件手形の原告に対する裏書は、指名債権譲渡の効力しか有しないものというべく、従つて被告は今村に対する抗弁をもつて原告に対抗し得るというべきである。
2 被告本人尋問の結果及びこれにより成立の真正が認められる乙第一、二号証、第三号証の一ないし九によれば、被告は今村から昭和四九年七月二九日金二〇〇万円を借入し、月五分の利息の三カ月分三〇万円を天引されたこと、その際被告は今村に右貸金債務の担保として額面二〇〇万円の被告振出にかかる約束手形一通を交付したこと、その後昭和四九年一〇月から昭和五一年八月まで別表二のとおり毎月一〇万円宛利息を支払い、その都度手形の差換又は期日の書換えをなしたこと、ところで被告は昭和五二年一月三一日五〇万円を支払つたので、額面を一五〇万円とする手形と差換え、その後同年八月二日八万円を支払つて更に本件手形と差換えたことが認められる。
そこで右認定にかかる天引利息及び支払利息のうち利息制限法所定の利息を超える部分を元本に充当して被告が今村から借用した貸金の残元利金を算出すれば、別表二のとおり昭和五一年六月二〇日の支払をもつて、元利とも完済に帰したことが明らかである。しかして本件手形は前認定のとおり右貸金債務の担保のため振出されたものであるから、右貸金債務が消滅した以上、被告は今村に対し本件手形金の支払義務を負わず、従つて被告は、今村に対する抗弁を原告に対抗し得る関係から、原告に対し本件手形金を支払うべき義務はない。
抗弁は理由がある。
三 よつて、原告の本訴請求は失当として棄却すべく、民訴法四五七条二項、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(別紙)
目録
金額 金一五〇万円
満期 昭和五二年一一月三〇日
支払地 京都市
支払場所 朝銀京都信用組合西陣支店
振出地 京都市
振出日 昭和五二年八月二日
振出人 被告
受取人 今村栄三
別表一
<省略>
△印は過払金を示す。
単位は円
別表二
<省略>
△印は過払を示す。単位は円